酸化とは、ひと言でいうと「活性酸素」で体内の細胞が傷つけられることです。
活性酸素は、酸素から生じます。クルマはガソリンがつくり出すエネルギーで動くように、私たちのカラダは酸素とブドウ糖からできる「ATP(アデノシン三リン酸)」をエネルギーに動いています。
このATPは体内の細胞内で繰り返しリサイクルされますが、リサイクルするときに、食事から摂取した「糖質」と「脂肪」を呼吸して得た酸素とともに燃やすことで生まれるエネルギーが必要になります。
このように酸素は私たちが生きていくうえで必要不可欠なのですが、一方で摂り入れた酸素の2~3%は、体内の細胞を傷つける活性酸素に変化します。カラダには活性酸素の害を抑える酸素が備わっていますが、その酸素の働きは加齢とともに低下します。これにより、酸化の害が蓄積すると、老化が進みやすくなってしまうのです。
さらに近年、酸化の陰に隠れていた老化の新たな仕組みが脚光を浴びています。それが「糖化」です。糖化とは、タンパク質と糖質が結びつく反応により、タンパク質が老化することをいいます。
現在では酸化と糖化は1枚のコインの裏表のようなもので、両者は同時におこる場合が多いことがわかっています。タンパク質と結びついて糖化を進める糖質は、私たちが食事から摂取するカロリーの半分以上を占めています。ですから、私たちの体内でタンパク質と糖質が出合うのは、避けようがないことなのです。
そこで問題となるのは、糖化されたタンパク質から、ある悪玉物質が大量につくられること。それが、活性酸素をはるかにしのぐ老化の元凶「AGE」です。
私たちの生命の維持に必要不可欠な酸素と糖質ですが、その反応によって生じてしまう活性酸素やAGEが私たちのカラダを老化させるとは、なんとも皮肉な話です。
でもひょっとしたら、これは生命をあえて老いさせ、新たな生命と世代交代させるために仕組まれたことなのかもしれません。そう考えると、この仕組みに巻き込まれない方法をがアンチエイジングと言えます。
(詳しくは、ソフトバンク新書「老けたくないなら「AGE」を減らしなさい カラダが糖化しない賢い生活術」をご覧ください。)
AGEは、真皮のコラーゲン線維とエラスチン線維がつくっている立体構造に、直接的なダメージを与えます。
そのことを科学的に明らかにしたのが2007年、フランスに本拠を置く世界的な化粧品会社ロレアルが発表した研究結果です。
この研究では、乳がんの患者さんから提供してもらった肌を培養し、糖質を加えてAGEをつくったとき、肌の細胞にどんな変化が起こるかを調べました。その結果、次のような事実が明らかになりました。
AGEで糖化させた細胞と糖化されていない細胞を比べると、糖化させた表皮のほうが厚くなること。それに、糖化させた細胞では、AGEの一種である「CML」という物質が、真皮のいちばん奥にたまること。
そして、コラーゲン線維を分解する酵素の生産が2倍近くも増加。酵素が増えてコラーゲン線維の分解が進むと、真皮が薄くなり、コラーゲン線維とエラスチン線維による弾力と張力が低下します。
エイジングを重ねた肌は一般的に、表皮が厚くなってかさかさになり、肌に弾力を与える真皮が薄くなってたるみやシワが増えてきますが、AGEはその両者に関与しているのです。
次は2009年に、日本のポーラ化粧品研究所がAGEと「黄ぐすみ」の関わりについて研究した成果について見てみましょう。
肌に透き通るような透明感がなくなり、黄色くくすむ黄ぐすみは老化のサイン。
黄ぐすみの原因となるのは、紫外線を浴びたことによるメラニン色素の蓄積と、AGEにあると考えられています。パンや肉などを焼いて褐色になるとAGEが増えることからもわかるように、AGE自体が茶褐色の物質なので、AGEの量が増えると肌が黄色くくすむのです。
そこで、この研究では40人の健康な日本人女性(平均年齢38歳)を対象として、頬の部分の肌のAGE量、メラニン色素の量、そして黄ぐすみの程度を測定して比較しました。
すると、次のような結果が得られました。
- AGEと年齢には相関関係があり、年齢とともにAGEの量は増えた。
- 年齢と黄ぐすみの程度には相関関係があり、年齢が上がるにつれて黄ぐすみの程度はひどくなった。
- AGEとメラニン色素の量には相関関係はなかった。
- メラニン色素と年齢の間には相関関係はなかった。
この4つのポイントからわかるのは、メラニン色素以外の要因として、AGEこそが、年齢とともに肌が黄色くくすむ老化の原因だということ。必死に日焼け対策をして高価なホワイトニング化粧品を使っても、AGEをケアしていないと肌が黄色くくすむ老化は避けられないのです。
高齢者に見られるシミ、いわゆる「老人性色素斑」は過酸化脂質とタンパク質が結合してつくられる「老化色素」の沈着が原因ですが、そこにAGEが大量に含まれていることがわかっています。
体内のタンパク質は、新陳代謝で入れ替わります。
表皮の細胞は1か月もしないうちに総入れ替えされますが、その奥にある真皮のコラーゲン線維の寿命は平均14〜15年と長く、その間にAGEが蓄積してジワジワと老化を進めていきます。
肌を若々しく保つポイントは、これまで紹介してきた次の4つのポイントを守り、AGEをためないことが大切です。
- AGEを含む高温調理した肉類、揚げたジャガイモなどの摂取を控える。
- 食後高血糖を招きAGEを増やす砂糖や精白された穀物を避ける。
- AGEを低下させるビタミンB群、カテキンなどの抗酸化物質を積極的に摂る。
- 食後は軽く運動し、AGEをつくる紫外線を避け、適量のお酒を楽しむ。
以上の4つを守るだけで、AGEによるカラダの老化と皮膚の老化を防ぐことができます。
さらに現在では、世界的な化粧品会社が肌の糖化に注目。AGEの蓄積を防ぐ化粧品を開発して販売しています。さらに、AGEの蓄積を防ぐ医薬品もあります。